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景気循環サイクル

好況から不況、そして回復へ。景気はなぜ繰り返し変動するのか、投資家心理とあわせて図解します。

対応年度:令和8年度(2026年度)最終更新:2026年8月21日

景気は、良い時期(好況)と悪い時期(不況)を交互に繰り返しながら変動します。これを「景気循環(ビジネスサイクル)」と呼びます。日本では内閣府が公式に「好況の山」「不況の谷」の時期を認定しており、投資や家計の意思決定にも深く関わっています。

景気循環の4つの局面

Boom / Expansion

好況

生産・雇用が拡大し、企業収益が増える。物価や金利は上昇しやすい。

投資家心理:「まだ上がる」という楽観が広がり、強気の投資判断が増える局面。

Recession

後退

生産・雇用の伸びが鈍化し始める。株価は景気の実態より一足先に下落し始めることが多い。

投資家心理:不安がよぎりつつも「一時的な調整」と考えたくなる局面。楽観から否認へ。

Depression / Trough

不況

生産・雇用が落ち込み、失業率が上昇。中央銀行が金融緩和に動きやすい局面。

投資家心理:パニック売りや悲観が広がりやすい。実は歴史的に見ると資産形成の好機であることも多い。

Recovery

回復

生産・雇用が持ち直し始める。株価は景気の底を確認する前に上昇し始めることが多い。

投資家心理:「本当に底を打ったのか」という懐疑が根強く、動き出しに乗り遅れやすい局面。

「山」と「谷」で投資家心理はどう動くか

行動ファイナンスの世界では、相場のサイクルを「楽観 → 期待 → 陶酔(=山)→ 不安 → 否認 → パニック → 絶望(=谷)→ 希望 → 安心 → 楽観」という感情の波として説明することがあります。多くの人は陶酔期に買い増しし、絶望期に売ってしまいがちですが、歴史的には不況の谷こそが積立投資を続ける・増やす好機になってきました。

1. 楽観2. 期待3. 陶酔(山)4. 不安5. 否認6. パニック7. 絶望(谷)8. 希望9. 安心

周期の長さで見る4つの景気循環理論

景気循環には、原因となる要素の違いによっていくつかの周期理論があります。

名称周期の目安主な要因
キチンサイクル(短期波動)約40ヶ月在庫の増減
ジュグラーサイクル(中期波動)約10年設備投資の増減
クズネッツサイクル約20年建物の建て替え
コンドラチェフサイクル(長期波動)約50年技術革新(蒸気機関、鉄道、自動車、ITなど)

実際の日本の景気循環(内閣府の公式データ)

内閣府は、生産・雇用など複数の経済指標から作る「ヒストリカルDI」をもとに、事後的に景気の「山」「谷」の時期を認定しています。過去50年(1975年〜現在)の拡張期・後退期を図示すると、以下のようになります。

19751980198519901995200020052010201520202025
拡張期(谷→山)後退期(山→谷)拡張中・山は未認定

各区分にカーソルを合わせる(スマートフォンではタップ)と、その循環の期間が表示されます。

上のグラフの元になった、それぞれの循環の正確な日付は以下のとおりです。

循環谷(不況の底)山(好況のピーク)次の谷
第8循環1975年3月1977年1月1977年10月
第9循環1977年10月1980年2月1983年2月
第10循環1983年2月1985年6月1986年11月
第11循環1986年11月1991年2月1993年10月
第12循環1993年10月1997年5月1999年1月
第13循環1999年1月2000年11月2002年1月
第14循環2002年1月2008年2月2009年3月
第15循環2009年3月2012年3月2012年11月
第16循環2012年11月2018年10月2020年5月

例:第16循環は谷(2012年11月)から山(2018年10月)まで71ヶ月の拡張、山から谷(2020年5月)まで19ヶ月の後退でした。景気循環は毎回長さが異なり、一定の周期で来るとは限りません。

景気を判断する代表的な指標

内閣府の「景気動向指数」は、景気に先行して動く「先行指数」(新規求人数、株価、マネーストックなど)、景気とほぼ同時に動く「一致指数」(鉱工業生産指数、有効求人倍率など)、景気に遅れて動く「遅行指数」(完全失業率、法人税収入など)の3種類に分けて公表されています。株価が「先行指数」に含まれているのは、投資家が将来の景気を織り込んで売買するためです。

インフレ・デフレ・スタグフレーション

景気循環と密接に関わるのが「物価」の動きです。物価が持続的に上がる状態を「インフレーション(インフレ)」、下がる状態を「デフレーション(デフレ)」、そして景気が停滞しているのに物価だけ上がる状態を「スタグフレーション」と呼びます。それぞれ発生する原因や種類が異なり、給与への影響も変わってきます。

インフレーションの種類

発生原因による分類:

ディマンドプル型インフレ(需要牽引型)

好況で需要が供給を上回ることで物価が上がる。人手不足を伴うことが多く、賃上げも起きやすい「良いインフレ」に近いタイプ。

コストプッシュ型インフレ(費用推進型)

原材料費・輸入価格・人件費など生産コストの上昇が価格に転嫁されて起こる。企業収益を圧迫しやすく、賃上げが追いつきにくい「悪いインフレ」になりやすいタイプ。

進行速度による分類:

名称目安の上昇率特徴
クリーピングインフレ年2〜3%程度ゆるやかで持続的な物価上昇。多くの中央銀行が目標とする「マイルドインフレ」もこの水準。
ギャロッピングインフレ年10%超駆け足で進む急激な物価上昇。日本も第1次オイルショック時に経験。
ハイパーインフレ月50%超(国際会計基準では3年で物価が2倍になるペース=年率換算約26%が目安)通貨の信認が崩れるレベルの猛烈な物価上昇。

主な要因:総需要の増加、原材料費や輸入価格の高騰(円安の影響も含む)、金融緩和による通貨供給量の増加、将来物価が上がるという「期待インフレ率」の高まりなど。

デフレーションの種類

悪性デフレ(需要不足型)

需要不足による物価下落。企業収益悪化→賃金カット・人員削減→さらに需要減少という「デフレスパイラル」に陥りやすい。

良性デフレ(生産性主導型)

技術進歩や生産性向上によるコスト低下が要因とされる価格下落。ただし内閣府など多くの経済分析では「デフレに良し悪しの区別をつけること自体に問題がある」という慎重な見方もある。

資産デフレ

不動産・株式など資産価格が下落する現象。担保価値の低下を通じて企業や金融機関の財務を悪化させる。

主な要因:需要不足、供給過剰、金融引き締め、将来物価が下がるという「期待デフレ心理」の広がり、人口減少・少子高齢化による国内需要の縮小など。

スタグフレーションの原因

「スタグネーション(景気停滞)」と「インフレーション(物価上昇)」を組み合わせた言葉で、不況とインフレが同時に起こる状態です。インフレやデフレほど確立した「型」の分類はありませんが、原因別に大きく2つに整理できます。

供給ショック型

原油価格の急騰など、供給サイドの急激なコスト増加が主因。1970年代の第1次・第2次オイルショックが代表例。

政策対応の遅れ型

金融緩和のしすぎや引き締め判断の遅れによって、景気が停滞しているのに物価上昇が続いてしまうケース。

給与への影響を比較する

状態名目賃金実質賃金理由
ディマンドプル型インフレ上がりやすい横ばい〜プラスになりやすい人手不足を背景に賃上げ圧力がかかりやすい
コストプッシュ型インフレ上がりにくいマイナスになりやすい輸入コスト増などが企業収益を圧迫し、賃上げが物価に追いつかない
デフレ下がりやすい必ずしも大きく傷まないこともある名目賃金は下がりにくい「下方硬直性」があり、生産性向上が賃金に反映されにくい傾向も
スタグフレーション上がりにくい大きくマイナスになりやすい物価上昇と景気停滞が同時に起きる、労働者にとって最も厳しい組み合わせ

「物価の上昇に給与の伸びが追いつかない」という現象は、実際に近年の日本で起きてきました。2022年以降、円安や資源高を背景にしたコストプッシュ型インフレの局面では、名目賃金が上がっても物価上昇のスピードに届かず、実質賃金(物価変動の影響を除いた賃金)は長期間マイナスが続きました。2026年に入ってからは、春季労使交渉(春闘)による高めの賃上げや物価の落ち着きが重なり、実質賃金は数か月連続でプラスに転じています(厚生労働省「毎月勤労統計調査」)。ただし原油価格が高止まりすれば再びマイナスに戻るリスクも指摘されており、「物価と賃金のどちらが速く動くか」は、インフレがディマンドプル型かコストプッシュ型かによって大きく左右されることがわかります。

中央銀行の政策金利が及ぼす影響

インフレやデフレを抑える・促すために、世界各国の中央銀行は「政策金利」を上げ下げして金融市場をコントロールしています。政策金利そのものは銀行間の短期的な資金のやり取りに使われる金利ですが、そこから預金・住宅ローン・国債・為替まで、暮らしに関わるさまざまな金利や相場に波及していきます。

政策金利の名称は国・地域で異なる

中央銀行対象政策金利の名称
日本銀行(BOJ)日本無担保コール翌日物金利(誘導目標)
連邦準備制度理事会(FRB)米国フェデラルファンド(FF)金利
欧州中央銀行(ECB)ユーロ圏主要リファイナンスオペ金利
イングランド銀行(BOE)英国バンクレート

具体的な金利水準は会合のたびに変わるため、最新の値は下記の各中央銀行の公式サイトでご確認ください。

政策金利がどこに、どう波及するか

銀行の預金金利・貸出金利

政策金利が上がると銀行の資金調達コストが上がるため、預金金利・貸出金利も連動して上がりやすくなる。下がれば逆に低下しやすい。

住宅ローン金利(変動型)

銀行が優良企業に貸し出す「短期プライムレート」に連動。短期プライムレートは政策金利をもとに決まり、多くの銀行で年2回(4月・10月)見直される。政策金利の変更が最も直接に伝わる部分。

住宅ローン金利(固定型)

「長期プライムレート」や10年国債利回りなど「長期金利」に連動。政策金利の現在の水準そのものより、将来の金融政策や物価の見通しを織り込んで動く。

国債の金利(利回り)

短期国債の利回りは政策金利に強く連動する。長期国債(10年債など)の利回りは、政策金利の現状に加えて将来の政策予想・インフレ期待・需給によって決まり、住宅ローン固定金利のベースにもなる。

為替レート

政策金利が相対的に高い通貨は、金利差を狙った資金(キャリートレード)を集めやすく、通貨高になりやすい。日米の金利差が拡大する局面では、低金利の円を売って高金利のドルを買う動きが強まり、円安・ドル高に振れやすいとされる。

経済全体への影響

利上げ(金融引き締め)は、借入コストの上昇を通じて企業の設備投資や個人の住宅購入・消費を抑制し、過熱した需要やインフレを落ち着かせる方向に働きます。半面、行き過ぎれば景気を冷やしすぎるリスクもあります。逆に利下げ(金融緩和)は、借入コストの低下を通じて投資や消費を刺激し、景気を下支えします。半面、行き過ぎればインフレを招くリスクがあります。日本銀行自身も「金利が低下すると、金融機関は低い金利で資金調達できるため、企業や個人への貸出金利も引き下げられ、企業の資金調達や個人の住宅取得がしやすくなり、経済活動が活発化して景気を押し上げる方向に作用する」と説明しています(金利が上がる場合はこの逆の流れになります)。

お金の意思決定との関係

新NISAやiDeCoのような積立投資では、不況期(谷に近い局面)こそ同じ金額でより多くの口数を買えるタイミングです。景気循環を知っておくと、下落局面で積立をやめてしまう「狼狽売り」を避け、長期の視点で淡々と続けやすくなります。景気の山谷をピンポイントで当てることは専門家にも困難なので、タイミングを計るより「サイクルは繰り返すもの」と理解したうえで、時間分散(ドルコスト平均法)を軸に考えるのが現実的です。

※ 景気の「山」「谷」は内閣府が事後的に認定するため、直近の局面がどちらに向かっているかはリアルタイムには確定しません。ここに掲載した過去の景気基準日付は2026年8月時点の内閣府公表データにもとづきます。最新の認定状況は内閣府経済社会総合研究所のサイトでご確認ください。